2012年度第63回大会シンポジウム「〈3.11以前〉の社会学――阪神淡路大震災から東日本大震災へ――」

2012年度第63回大会シンポジウムについて

〈3.11以前〉の社会学――阪神淡路大震災から東日本大震災へ――

東日本大震災は,被害の規模,被災地の範囲の広さに加え,原発事故まで引き起こし,半年以上経ったいまも,復興はおろか,復旧のめどさえ立たない。こうした状況において,社会学に何ができるのかが問われている。

1995年に起った阪神淡路大震災も,すでに同様の問いを社会学者に投げかけていた。それは,震災後の復旧・復興の現状を通じて,戦後の日本社会そのものに対する根本的な反省を促すものだった。その結果,この時期に社会学に新たな視点が生まれ,また,それに基づいて研究対象が構築されていった。

まず「ボランティア」という新たな営みが注目され,現代社会における新たな社会的連帯のありかたが模索されるようになり,「多文化共生」ということばが,新たな連帯を方向付けるキーワードとして用いられるようになった。また,災害は空間と環境の破壊であることから,公共空間をいかに再生させるのかについても議論が生じた。そこで,いかにして,震災を記憶するかという問題に照明が当てられた。

一方で,「リスク」という用語が,社会学において定着する契機となったのも,阪神淡路大震災からである。リスクへの恐怖が生む連帯は,根本的な根源的な格差を隠蔽している。戦後に日本で進めてられてきた開発そのものが,そもそも地域間,階層間の差別を再編成する過程であり,福島第一原発の事故は,その帰結点であると考えることもできる。それは,現代社会において「連帯」そのものが困難であることを示している。そして,災害復興が国家主導による地域間格差の新たな「追認」の過程となる危険性を暗示している。

本シンポジウムでは,以上のような観点から,阪神淡路大震災を中心に,「3.11以後」ではなく,「3.11以前」の社会学研究のなかに「3.11以後」を読み解く知を見出そうとする試みであり,この試みを通して,これから長期間にわたって続くであろう復興への困難な道のりを社会学者としていかに捉えていくべきかを問うものでもある。

<報告者>今井信雄(関西学院大学),三上剛史(神戸大学),金菱清(東北学院大学),山下祐介(首都大学東京)

<司会者>蘭信三(上智大学)・荻野昌弘(関西学院大学)

(研究活動委員 蘭信三・荻野昌弘)