第63回関西社会学会大会奨励賞決定について

第63回関西社会学会大会奨励賞決定について

 

大会奨励賞選考委員会委員(委員長代理) 芦田 徹郎

 

本学会が大会奨励賞を授与するのは,今年で7回目となりました。本賞は,学会大会において発表された若手会員の一般報告の中から優秀な報告に学会賞を授与するものです。

皇學館大学で5月26日,27日に開催された第63回大会の奨励賞選考については,本賞の対象となる44点の一般報告を選考委員会で厳正かつ慎重に審議した結果,下記の3点の報告が「関西社会学会大会奨励賞」に選ばれました。

3名の報告者にはおのおの賞状ならびに2万円の賞金が授与されました。受賞者氏名,報告題目,報告要旨は下記のとおりです。本賞の選考等にあたり,司会者をはじめ選考委員ならびに会員の方々には多大なご協力を賜りました。ここに厚くお礼を申し上げるとともに,本賞を契機として若手会員の研究の進展と大会報告の活性化,ひいては社会学のいっそうの発展が可能になればと期待しております。

受賞者氏名(50音順)

  • 柴田 悠 氏(同志社大学)
    • 報告題目:東アジアにおける親子間援助行動の国際比較──EASS-2006のデータを用いた記述的分析──
  • 伊達平和 氏(京都大学)
    • 報告題目:高学歴が家父長制意識に及ぼす影響についての比較社会学──日本・韓国・台湾・中国・ベトナム・タイにおける比較──
  • 藤原 翔 氏(大阪大学)
    • 報告題目:学歴別にみた世代間移動──日本における構成効果(compositional effect)の検討──

報告要旨

柴田氏の報告は,東アジア諸国の急激な人口高齢化によって迫られる社会保障制度の構築・再編をにらみ,親子間の援助行動の傾向を,東アジア社会調査(EASS)2006のデータを用いて,主として都市度・学歴・世帯所得階層との関係において把握しようとするものである。結論として,高学歴・高階層の子は親に金銭援助し,代わりに親は子に家事援助するという東アジアの全体的傾向と,たとえ高学歴・高階層でも,親からの金銭的援助が多いにもかかわらず,子から親へのそれは少ないという日本の特徴が示されている。

伊達氏の報告は,アジア諸国の「家父長制意識」を,「父権尊重意識」と「性別役割分業意識」という2変数(軸)を設定して,EASS2006,Thai Family Survey2010,及びVietnam Family Suvey2010のデータにもとづき,日本・韓国・台湾・中国・ベトナム・タイの6ヵ国の比較において把握しようとする。その結果、上記2変数(軸)でアジア諸国が示す多様な家父長制の相対的な布置関係を描くとともに、「高学歴」者と「低学歴」者との「家父長制意識」の差異が地域(東アジアと他の国々)によって異なることを指摘している。

藤原氏の報告は,欧米などでは社会的流動性の高まりと,その一要因として高学歴層での出身‐到達関連の小ささが指摘されているが,それらの知見が日本にも妥当するのかを,SSM調査のデータにもとづき,職業威信スコアなどの指標を用いて検証しようとするものである。その結果,日本では高学歴のほうが職業威信スコアの親子関連が強く,流動性が低いという傾向がみられ,教育機会の平等化と学歴獲得が流動化を推進するとはいえ,教育のそうした介入効果は欧米諸国に比べ相対的に小さいことを指摘している。

選考概要

選考にあたっては,司会者から寄せられた「選考評価用紙」における評価を重視し,当日レジュメ,報告要旨集なども参照したうえで,奨励賞選考委員会において慎重に検討し,上記3点を大会奨励賞受賞報告とすることに決定しました。

選考委員会は次の5名の理事によって構成されています。大野道邦(会長),三上剛史(選考委員長),芦田徹郎(選考委員),神原文子(研究活動委員長),牟田和恵(学会誌編集委員長)。

なお,来年度に報告される若手会員の目安としていただくために,選考の基準・方法についてお知らせしておきます。

選考は,司会者が記入する選考評価用紙に基づいて行われます。司会者には,「学問的レベル」,「プレゼンテーション能力」,「応答能力」,「当日報告レジュメ」などを総合的に判断した評価をお願いしています。各部会において,奨励賞受賞候補として推薦できる報告があった場合には,各部会から1点のみ推薦していただき,その評価をお願いしています。司会者による選考評価用紙の評価を重視しながら,人数の絞り込みや,評価の妥当性について選考委員会で判断し,概ね5名以内の受賞者を決定します。