テーマ
「家族実践の社会学――行為に着目する家族研究の意義と方法論の検討」
概要
本シンポジウムは、家族実践(family practice)概念の論点を整理すること及びその発展可能性を明確にすることを目的としている。家族実践とは、イギリスの家族社会学者D.モーガンによって案出された概念である。日本では『家族実践の社会学: 標準モデルの幻想から日常生活の現実へ』(Morgan 2011=2017)として翻訳されている。海外の家族研究では、多様化する家族の諸相をとらえる新たな視角として2000年代以降注目されてきた。同時に、私たちがよく見ている「当たり前の」家族の営みを再考することにも役立つ。しかし、日本の社会学ではあまり用いられていない現状がある。そのような背景をふまえ、この家族実践という概念の、家族社会学の方法論としての可能性を検討していく必要がある。本企画を通して、なぜ家族に関連する様々な相互行為や現象を「あえて」社会学で研究するのかという問いへの答えを提示することを目指す。本企画の意義は、おもに以下の2点である。
第1に、現代社会の変動する「家族」をめぐる多様な実践をとらえる方法論を創出することにつながる。家族の形態やその営み、あるいは家族の自己定義自体も多様である中で、その複数の細々とした、日常的な家族の営みを「実践」という動態的な社会学的な認識方法を用いて記述することができる。
第2に、家族を対象とした社会学的研究の射程を広げ、家族社会学に限らない教育社会学や福祉社会学や医療社会学などをはじめとする隣接領域との接合を図ることにつながる。家族実践は、ジェンダー実践、福祉実践、教育実践、医療実践あるいは労働実践といった多様な実践の複合の中に位置づけられる。例えば、虐待をはじめとする望ましいと思われにくいような経験の家族実践、福祉施設の中に見られる家族実践、医療的ケア児とケアする家族の実践、精神疾患を抱えた人が家族を想起する実践、夫婦仲が上手くいかない場合の夫婦関係調整の家族実践、青年期のがん患者と親の家族実践、貧困を含む複合的な不利が集積する地域で子育てをする母親のネットワーク実践などは、まさに家族をめぐる実践であるが、同時に家族の枠にはとらわれない複数の関与者がいたり、家庭の外に広がる多様な場(端的には施設や地域、病院、学校)で展開されていたりする。これらの事例には枚挙に暇が無い。
2025年度関西社会学会に向けた公開研究会として、第1回(8月27日神戸女学院大学)では『家族実践の社会学』(Morgan2011=2017)の議論や家庭生活を対象とした海外の会話分析的な研究(Goodwin & Cekaite 2018)の概要を確認する。第2回(11月3日大阪大学)は、報告メンバーやゲスト報告者の研究事例に対して家族実践概念を用いて報告する。その上で、第3回(場所・日時未定)では様々な家族の営みを家族実践というレンズを通してみる意義と論点、方法論について整理する予定である。
これらの集大成として2025年度の関西社会学会大会若手シンポジウムを実施する。
企画者
三品拓人(関西大学)
参加者
三品拓人(家族社会学)
岡田玖美子(家族社会学)
松元圭(医療社会学)
笠井敬太(医療社会学)
桑山碧実(教育社会学)
宇田智佳(教育社会学)
西林佳人(福祉社会学)