2021年度第72回大会シンポジウム「社会学を高校生にも――〈市民〉を育てる実践」について

シンポジウム「社会学を高校生にも――〈市民〉を育てる実践」

趣旨

今期(2019年~2022年)の研究活動委員会は,〈社会学のルーツと境界を探り,アクチュアリティを問う〉をコンセプトに,さまざまな可能性を追求しています。

2020年度の第71回大会(10月11日:オンライン開催)では,現代の政治をアクチュアルに問うシンポジウム「2010年代の政治と権力――何が破壊され,何が生まれたのか?」が開催され,活発な議論を展開されました。詳細は『フォーラム現代社会学』第20号(2021年)の特集をご覧ください。

第72回大会シンポジウムのテーマは「社会学を高校生にも――〈市民〉を育てる実践」です。

社会学は大学から学ぶものという通念があります。実際,日本の中等教育(特に社会科・公民科)で社会学が果たしている役割は,この学知のもつ力からすれば,きわめて限定的です。社会学は,中学社会の公民的分野や高等公民科を基礎づける学問の一つでありながら,同じ社会科学である経済学や法学と比較して,その占める割合がきわめて低いといえます。しかし,国際的にみれば,高校で社会学が教えられている国も多数あり,「社会学は大学から」はグローバルな常識ではありません。また,台湾社会学会では,学会大会で高校生が参加するセッションが毎年開かれており,高校生に社会学の魅力を伝える取り組みが行われています。学会が積極的に高校生にアプローチすることに特徴があり,100~200名の高校生がセッションに参加しているようです。

実際,10代,それも高校生に,社会学的な考え方の一端を伝えることには意義があると考えられます。社会学的な思考方法に触れることは,高校生が自らの生きている社会を理解する手がかりとなるからです。社会学は,彼らの価値観を変容させ,視野を広げ,物事を常識とは異なる角度から捉えられるようにする可能性があります。

そこで,本シンポジウムでは,「社会学の高校生との出会いは何をもたらすか」という問いを立て,社会学がもつ可能性の広がりについて検討したいと思います。中等教育と大学教育の「あいだ」で,社会学のアクチュアリティを問い,〈社会学の未来/社会の未来〉を展望したいと思います。

具体的には,「高校生に社会学を伝えるためにはどのような工夫をすればよいのか,どのような工夫ができるのか」,「高校生が社会学に出会うとどのようなことが起きるのか,なにが新しく生まれるのか」,「社会学と高校生の出会いを難しくしているものは何か,その困難はどのようにすれば乗り越えられるのか」というような論点を想定しています。

このシンポジウムでは,高校教育で社会学の知見や方法を用いて授業を行っている教員の方と大学所属の社会学研究者の方からご報告いただき,フロアを交えて自由に議論していきたいと考えています。高校教員からは,『シティズンシップ教育のすすめ―市民を育てる社会科・公民科授業論』(法律文化社,2013年)の著者である杉浦真理先生(立命館宇治中学校高等学校),『男子の権力』(京都大学学術出版会,2014年)の著者で,社会学の博士論文を執筆している片田孫朝日先生(灘中学校・灘高等学校)にご報告いただきます。大学の社会学研究者からは,日本社会学会の社会学教育委員会でWebサイト「社会学への誘い――高校生・進路を考えている皆さんへ」の作成に携わった丹辺宣彦先生(名古屋大学),『「今、ここ」から考える社会学』(ちくまプリマー新書,2017年),『他者を感じる社会学――差別から考える』(ちくまプリマー新書,2020年)などを執筆し,社会学初学者へ精力的な発信を続けている好井裕明先生(日本大学)にご報告いただきます。

司会は,研究活動委員の伊地知紀子(大阪市立大学),都村聞人(神戸学院大学)が担当します。シンポジウムを通じて,大学に所属する社会学者たちと高校生と社会学の出会いをつくっている高校の先生方とが,どのように協働していけるかを議論できればと考えております

報告者および報告タイトル

・丹辺宣彦(名古屋大学)
日本社会学会による高校生向けウェブページ作成の試み
―社会学は将来世代にどうアピールできるのか―

・片田孫朝日(灘中学校・灘高等学校)
「先生のような社会学者・教育者に出会えたことを‥」
―公民教育にとっての社会学と「生き方の問いかけ」―

・杉浦真理(立命館宇治中学校高等学校)
高校シティズンシップ教育と社会学 出会いと可能性
―「公共」や「市民社会」を生徒に―

・好井裕明(日本大学)
社会学的想像力をいかにしたら伝え得るのか
―私が新書を書き続ける理由(わけ)―

司会

・伊地知紀子(大阪市立大学)
・都村聞人(神戸学院大学)

(研究活動理事 伊地知紀子・都村聞人)